
第19節 ヴァンフォーレ甲府戦
「消えゆく火種」
昇格争いからは置いていかれた。
「もう諦めた…」そんな言葉があちこちで交錯する。
それでも、「まだなんとか…」という想いが捨てきれないでいる。
「昇格をどうのこうの言うには厳しくなってきたが、落とせないゲームだという事に変わりはないんで」
この言葉で始まったCURVAのサポートは、空席の目立つスタンドに反響して、いきなり強烈なパッションを放った。
なんとも皮肉なものだが、普段は自らの耳に届かないこのパッションが、今ひとつ乗り切れていなかったCURVAにスイッチを入れる事となる。
チームがどんな状態だろうと、CURVAに足を踏み入れた以上、成すべき事はひとつ。
札幌の勝利を信じて、共に戦うだけだ…と。
だが、序盤。
試合は思わぬ方向に流れ出す。
甲府のCKから放たれた『明らかなミスキック』が、自陣のゴール前に詰めていた和波の左足を直撃!
イージーなボールが突如として悪魔の軌道を描き、札幌のゴールネットを静かに揺らした。
時間にして、まだ3分。
試合開始の余韻がまだ残る時間帯だけに、CURVAのテンションが著しく落ちる事はなかったが、難しいゲームになる事は覚悟するしかなかった。
そういえば、'01のFC東京戦。場所も同じこのドームで、和波がオウンゴールを決めた試合は、結局5失点の大敗だったな…。
いやな事を思い出してしまったが、そんな思いはピッチ上の選手たちが拭い去ってくれた。
札幌がCKのチャンスを得た時、尽の号令で、DFが3人揃って猛然とゴール前に駆け上がり、最終ラインには川口と岡田が残る。
高さが武器のDF3人衆だから、当然といえは当然なのだが、彼らがゴール前に上がる際に見せた気迫は本物だった。
これでサポートに集中できる…そう思うえた。すると、CURVAのテンションも加速を始める。
僕以外にも、彼らの気迫が伝わったのだろうか、とても1点ビハインドのCURVAじゃない。
そしてこの気迫は選手たちの背中をも押す。
右サイドからのセンタリングを和波のダイレクトボレーが一閃!
「おわっ!」
と、驚嘆の声が洩れるほど、見事に抑えの利いた左足でのボレーシュートだった。
歓喜に沸くCURVAのあちこちで、「これで和波はチャラだな。チャラ…」という声が飛び交う。
実際、一番ほっとしたのは、和波だった事だろう…。
これでゲームはふりだしに戻った訳で、ここから臨戦態勢に…と思った矢先。
甲府のCKからのセンタリングがこぼれ、ゴール前がスクランブル状態に!
しかも、ゴール真正面でフリーだった甲府の選手の足元にボールがこぼれ、「あっ!」というどよめきと共に、甲府に追加点を奪われた。
和波のゴールで勢いのついていたCURVAだったが、さずがにこの瞬間は凍りついた。
札幌の得点力不足を考えれば、あまりにも痛い2失点目だ。
いやな空気が漂い始めるCURVA。
ピッチでは、古巣で思いのほか温かな歓迎を受けた小倉が、それに気をよくしたのかピッチを縦横に駆け巡っている。
まだ加入して間もないはずだが、不思議なほどチームにフィットしていた。正直、厄介極まりない。
それを敏感に察知したのか、ジョアンの動きは早かった。
前半の27分に、川口に代えて砂川を投入。
この試合、おそらくは「3−5−2」で挑んでいた札幌だったが、砂川の投入で中盤からの攻撃オプションを更に増やした格好だ。
攻撃的なジョアン采配は吉とでるか凶とでるか…。
戦況を見つめながらサポートに集中していくと、CURVAのテンションも、2失点目のショックからなんとか立ち直ることに成功した。
CURVAの精神的な成長だろう。打たれ強くなってるのは間違いない。
すると、どうだ。
甲府ゴール前の混戦から、誰からシュートを放った。が、間一髪甲府のDFに弾き出される。
なんともいえない微妙なプレーに、一瞬動きが止まるCURVA。
だが、次の瞬間、どこからともなく大歓声が沸きあがった。
右サイドの副審がゴールのジェスチャーをしたようにも見えた。
「ん?ん?んんっ!?」
正直、この時は状況が飲み込めなかったが、札幌の選手たちもピッチ上で歓喜の輪を作っている。
「入ったの?」
「入ったらしい!」
数秒のタイムラグを経て、歓喜の波がCURVAに伝播する。
収まらない拍手と歓声の中で、大型ビジョンに曽田が大映しになった。
「曽田だよっ!」
再び大歓声に揺れるドーム。
乱打戦の予感。広島戦の再来か…?
同点弾がもたらした陶酔感を引きずったまま、前半はそのまま終了。試合は、怒涛の後半へと突入していく事になる。
後半は緊張感漂う展開となった。
ピリピリとした空気を切り裂くように、CURVAからは絶えることなくサポートが送られた。
次の1点で勝負が決まる…集中力を切らせた方が…やられる。
この息苦しい展開を嫌ったか、先に動いたのはジョアン。
曽田→三原、新居→森山の2枚代えを敢行。早くもカードを使いきり、勝負にでた。
ただ、三原の投入で中盤に厚みはでるだろうが、曽田を引っ込めるのはどうだ?
西澤が警告を貰っていただけに、ちょっと釈然としない部分はあった。
引っ込んだ事を惜しまれる選手になったか…曽田。
森山は久々の登場だったが、DFの裏を狙って軽快な動きを見せる。
いかにも森山らしい…というシュートを放ったが、惜しくもキーパーの正面を突いた。
『このまま終わるのか?』
残り時間は10分を切っている。
『いや、勝たないと意味がない!』
CURVAのテンションはここまで高いレベルで推移してきた。
だが、それで満足したってしょうがない。ここからのひと踏ん張りが肝心だ。
選手たちも勝ちを狙っているように見える。ピッチからも気迫が伝わってくる。
そしてその気迫が意地のゴールを生む。
83分だ。
CKから、ゴール前でヘディングが炸裂。甲府のゴールネットが揺れた!
ピッチでもみくちゃにされていたのは尽だった。
頼りになるチームリーダーの勝ち越し点で、この試合初めてリードを奪った札幌。
『もらった!』
言葉にならない歓声と雄叫びの中で、勝利を確信するTIFOSIたち。
残り時間を集中してやり過す。
このミッションがどれだけ困難なのかは、身に染みて分かっている札幌のTIFOSIたちだが、この日はそんな気配すらない。
DIVISIONも変わった、監督も変わった、苦々しい過去の惨劇がこの場で繰り返されることなどあり得ない。
そう信じて疑わなかった。
時間は刻一刻と過ぎていく。
CURVAの集中力も極限まで研ぎ澄まされている。
第4審判の用意したロスタイム表示用ボードには『3』の数字が刻まれ、今まさにそれを掲げようとした刹那。
セットプレーから、痛恨の失点…。
ボールが藤ヶ谷の指先を掠めた瞬間、深い溜息と耳を劈く悲鳴とが一緒くたになってピッチに降り注ぐ。
茫然自失のCURVA。
「まだ終わってねぇぞーっ!」
誰かが叫んだ。
それでも、怒りのぶつけどころに窮した藤ヶ谷が、自陣のゴールに吸い込まれたボールを思いっきり蹴りだす場面を見て、
「終わったな…」そう感じた。
緊張の糸が切れ、集中力を失った札幌にはここから再逆転をする力は残っていなかった。
ロスタイムの3分はただ静かに過ぎていくだけ。
CURVAも必死の抵抗をみせたが、選手同様、切れた集中力が再び戻ることはなく、気の抜けた炭酸のようなサポートに終始してしまった。
あそこで『まだいける!』と思えるほどの強い精神力がCURVAには必要なんだろうが、これもまた現実だ…。
歓声とブーイングが一緒くたになったスタンドに向かって、選手たちが憔悴しきった顔で挨拶をする。
CURVAも疲弊しきっていた。まばらな反応を返すのが精一杯だ。
実際、この段に至って、目一杯ブーイングできる体力が残っている人たちは、試合中なにをしてるのだろうか…と不思議に思う。
喜怒哀楽。そのすべてが詰まっているのがスタジアムだが、できることなら『最後』は笑って終わりたい。
とにかく疲れた。心地よい疲労というには程遠い…。
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