
第17節 湘南ベルマーレ戦
「DEADLINE」
開場前はとにかく寒かった。
まったく予想外の土砂降りにも遭遇した。
昨夜もかなりの雨量だったが、濡れたピッチは果たしてどちらの味方をしてくれるのか…。
怪我で戦列を離れる選手もいれば、復帰する選手もいる。
この日は、砂川と酒井がピッチに戻ってきた。
今季、攻撃のアクセントとして抜群の動きを見せていた砂川の復帰は、ここの処の得点力不足の解消にはもってこいのカンフル剤になる。
そして酒井。
昨季・日本平で、しかもあろう事か目の前で負った『靭帯断裂』という悪夢のような怪我から、遂に復帰を迎えた。
サテライトではキレのある動きを見せていたように見えたが、果たしてトップチームの動きにどこまでついていけるか。
くれぐれも無理は禁物だが、期待もしてしまう…複雑だ。
復帰を祝して二人に送られた暖かな拍手と歓声が、彼らを守ってくれることを祈った。
もう負ける事も許されなくなってきた札幌は、序盤から積極的に湘南ゴールを目指した。
ダイヤモンド型の中盤の左を任された砂川も、復帰明けとは到底思えない突破を幾度となくみせる。
ただ、右のビタウとトップ下のROBERTも攻撃意識が強いから、1ボランチを任された川口の負担は相当だろう。
やられるとしたら、ココを抜かれた時だ…。
そうはさせじ!と、威勢のいいサポートを送るCURVAだが、実際のところテンションは今ひとつ。
試合開始を寒さに耐えながら待っていたせいで、身体が硬くなってしまったのだろうが、そんな時こそ身体を動かせばいい。
いつもの2倍、3倍…声を出し、飛びまくる。そうすれば、硬くなった身体もほぐれるだろうし、心も熱くなるものだ。
だが、ほとんどいつもと同じテンションを放つ中心部とは対照的に、周囲の温度が時間を追うごとに冷えていくのがわかる。
このまま行けば、山形戦のように、前半終了と同時にブーイングが起こるな…。
それほど冷めた空気がCURVAを包んでいた。
…だが、サッカーというのはつくづく判らないものだ。
前半はこのまま終わるか…と思われた39分。
湘南のDFがクリアしたCKのこぼれダマを、ビタウがダイレクトボレーでハードヒット!
日本人離れした脚力から放たれたボールは、湘南GKの小林・元札幌が飛びつくのをあざ笑うかのように、ゴールネットに突き刺さった。
昨季の欧州CLのFINALでREAL-M.のジダンが見せたダイレクトボレーに似た、豪快かつ華麗なゴールだった。
このゴールでCURVAが息を吹き返したのはいうまでもない。
それまでの停滞ぶりから一転して、熱く激しいサポートがピッチに降り注いでいった。
後半開始の笛が鳴る。
CURVAには、どこかしら余裕があった。
ここまで先制したゲームは落としていない…というデータが織り込み済みだったのか、厚別という場所がそうさせるのか。
ちょっと緊迫感のない、いやな空気が流れていたのは確かだ。
そしてまた、この空気を見透かしたかのように、湘南のたった1本のCKから1点を献上。
あまりに大きな失点。
『1−0で勝てる!』といった、妙な余裕に支配されていたCURVAの空気は、例えようのない焦燥感に姿を変えた。
ビタウのゴールは決まったものの、それ以外で得点の匂いはしてこない。
何度となく繰り返されるCKも、シュートまでもっていく事すらできない。
噛み合わない攻撃の歯車に苛立つTIFOSIたち…。
ここでジョアンは、運動量の落ちてきた砂川に代えて、酒井を投入。
FWの控えがベンチにいないだけに、酒井が攻撃の切り札だった。
地道で、辛く厳しいリハビリを乗り越えてきた酒井の復帰に一瞬にして沸き返るCURVA。
『無理はするな…でも、期待せずにはいられない…』
そんなTIFOSIたちの想いがサッカーの神様の通じたのか、はたまたサッカーの神様から酒井への復帰祝いだったのか、
酒井に最高の場面が訪れる。
右サイドから放たれたクロスが酒井の足元にどんぴしゃり。
あとはドルブルで持ち込んで、湘南GK・小林と1対1だ!
『もらった!』
誰もがそう思った瞬間。
酒井は足をもつれさせて、自ら転倒。絶好のシュートチャンスをフイにしてしまう。
見た感じでは、どっちの足で打とうか迷っている間に足がもつれたようだった。
雨でスリッピーになっていたピッチにも原因はあるだろう。とにかく惜しい…の一言だ。
その後札幌は中尾に代えてルーキーの岡田を投入。
若い力に期待するという意味では面は悪くないが、裏を返せばルーキーに期待するしかないという苦しい台所事情の表れでもある。
また、交代枠最後の1人は尽の負傷によって西澤。
終盤の大事な局面で、アクシデントによってカードを切る辛さといったらない。
残りの僅かな時間、現有戦力で勝ち点『3』を奪うしかなくなった。
ただ、湘南のDF・パラシオスが邪魔くさいのなんのって、もうイライラしっぱなしの状態。
CURVAも最後の意地でサポートを繰り広げたが、得点の匂いがしないせいもあって、終盤は諦めムードが漂っていたように思う。
それでも、最後の最後。
新居が狙い澄ましてスラしたボールが、ゴールバーを直撃したシーンでは、さずがに一瞬、
「おおっ!」
とどよめきが起こった。
が、惜しい場面はそれぐらいのものだった。
結局は『1−1』のまま試合終了の笛を聴くこととなる。
ホームで、しかも厚別で、最下位の湘南相手に『1−1』のドロー。
負けに等しいドローは、例えようにない脱力感をCURVAにもたらしていた。
まばらな拍手とブーイングに包まれながら、スタンド前を通り過ぎる選手たち。
CURVAも同じような反応を見せた。
確かにチームは怪我人続出でつぎはぎだらけの状態だ。
ただ、それは選手個人の責任であり、チームの責任だ。
厚別で最下位相手に引き分けを演じてもいいという、言い訳にはならない。
『1−1』。この結果をどうとるか、TIFOSIたちそれぞれが思い悩みながら、帰路に着いた事だろう。
ただひとつ言えるのは、J1復帰を目指すならば、ホームでの負けは何があっても許されない。
そこまで追い込まれたということだ。
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