
第13節 モンテディオ山形戦
「覚醒」
『おいおい、それはちょっと違うだろ…』
前半終了の笛と同時に湧き上がったブーイングに、そう感じた人も多かったのでは…。
この日の対戦相手は山形。
今季初勝利を挙げたゲンのいいチームであり、昨季限りで札幌を去った古川先生の所属するチームでもある。
個人的にも古川先生にブーイングはできないなぁ…と思ってはいたが、大多数の札幌サポたちもそうだったようで、
スタメン発表で『古川毅』がコールされると、暖かな拍手が起こっていた。
ただ、勢い余ってか『古川コール』が飛び出したあたりは、ちょっと行き過ぎかな…とも思ったが、それだけ彼が札幌に愛されていた証拠なのだろう。
これに気を良くしてファインプレーを連発しない事を祈るばかりだった。
この日の厚別は、炎天下というには程遠いのだろうが、それでも充分に暑かった。
CURVAではピッチ練習の段階から大量に水が撒かれている。
そうでもしないとホントに干上がってしまいそうだった。
厚別名物の風もこの日はなりを潜め、中2日の過密日程では選手にとってもタフなゲームになるだろうと推測された。
だが序盤、山形は積極的だった。
前線からの厳しいプレスで、札幌はいきなり防戦一方の展開を余儀なくされる。
『いったいどっちのホームなんだか…』
そう思いたくなる程の有様だ。
ただ、現在の札幌のチーム状況と中2日という日程をかんがみれば、前半から飛ばすのは得策とはいえない。
山形が攻めてくるなら、まずきっちりと守る事から始めればいい。
CURVAでもそう感じたから、あまりハイペースなリズムのサポートは控えた感がある。
前半は山形がこちらに向かって攻めて来る展開だから、CURVAは藤ヶ谷の後ろからバックアップ的なサポートに終始した。
『声の壁を築け!』
…そんな感じだろうか。
ゲームはコレといった場面もなく静かに進む。
真後ろから見ていると、確かに札幌の選手は動かない。パスも足元から足元へと繋がれ、攻撃に関してはスピード感の欠片もない。
『それでもいい』
そう感じながらのサポートだった。
『まずは失点しないこと』
これ以上、今の札幌に重要なものはない。
札幌は『MILAN』でもなければ『REAL MADRID』でもない。90分間相手を圧倒し続けることなど不可能なのだから…。
ただ、そうは思わないサポたちもいたようだ。
前半も半ばを過ぎた頃から、「しっかりしろ!」だの「ちゃんとやれ!」だのと、強烈な野次が飛び始める。
確かに札幌の選手達は消極的に見えるし、最終ラインでの横パスを奪われるというお粗末な場面もあった。
それでも『ちゃんとやってない』ようには見えない。
もしかしたら、ベンチからの指示で前半は攻撃を捨ててるのかもしれないし、
まずはパスを回して山形の選手を走らせようという意図があったのかもしれない。
が、そんなとこはどうでもよく、『動かない』選手たちに、痛烈な野次と罵声が続け様にCURVAから放たれていく。
前半が終わる頃には、CURVAには不穏な空気が充満していたのは確かだ。
だが、まさかそれが、前半終了の笛と同時に『ブーイング』となって選手に襲い掛かろうとは思いもしなかった。
『おいおい…』
あまりの出来事に声をなくすCURVA中心部。
ここではっきりさせておきたいが、この時のブーイングにCURVAの中心部はまったくもって『無関係』である。
あまりの感覚のズレに正直驚いたのと、そんなにデカイ声でるんだったらもっと応援してくれよ…と、半ば呆れてしまっていた。
『まだ前半が終わっただけだろ。ゴルァ!』
そう言いたげな空気が鋭いナイフのようにCURVAを引き裂いていく。
昨季の柱谷元監督の解任騒動でもCURVAの認識にズレが生じたが、今季もこんな形で姿を表すとは…。
もちろん人それぞれ想う処があってCURVAに集結している訳だが、究極的な部分は『チームを信じること』に尽きる。
この共通意識がCURVAにあの強烈な一体感を生みだすのだ。そう信じている。
そう想えば想うほど、あのブーイングはなんともやりきれない瞬間ではあった…。
さて、だからといってそんな感傷に浸っている場合ではない。
CURVAではこの沈滞したムードを打ち消す為に、バケツで水を被るTIFOSIが出現。いやはや気合である。
この勢いをかって、後半のサポートが始まった。
ジョアンも状況が好転しないとみるや、50分に早くもカードを切る。
『こんなに早く切るんだったら、後半頭からいけよ…』
とはご愛嬌。
中尾に代わって投入された三原からの縦パスが一気にゴール前に飛んでくる。
「あっ!」
いろめきたつCURVA。チャンスだ!
このボールに反応したのは、山形のディフェンダーを左右に随えたまま猛然とダッシュしてくる新居だった。
新居はトップスピードに乗ったままボールに追いつくと、最期の一瞬までキーパーの動きを見切り、
右足で落ち着いてゴール右隅にそのボールを流し込んだ。
待ちに待った新居のゴール!
CURVAに向かって歓喜の雄叫びを上げる『KING OF SAPPORO』に、賞賛の拍手と鳴り止まぬ歓声が贈られた。
『これがサッカーである…』
それまでどんなに悪くても、1点は1点だ。
新居にとってもチームにとっても、、この1点の重みに勝るものはない。
いつまでも鳴り止まない地鳴りのような歓声とざわめきも、その重要性を如実に示していた。
この1発でCURVAの空気も一変した。
現金といえばそれまでだが、再びCURVAにあの一体感が戻ってくる。
負けることなど微塵も感じられない集中力がCURVAを満たし、札幌の選手たちを鼓舞し続ける。
ここからゲームは一進一退の攻防をみせた。
先制を許した山形は攻撃の手を緩めることなく、札幌のゴールに襲い掛かる。
ジョアンは終盤に2枚代えを敢行。
運動量が落ちた和波に代えて西澤を投入して守備固めを図り、大歓声を背にピッチを去った新居に代えて岳也を投入。
人事は尽くした。あとは天命…には任せられない。なにがなんでも勝ちに行く。
札幌も前がかりな山形にカウンターを浴びせるべく、隙を窺い続けたが、ここで立ち塞がったのが古川先生だった。
背番号『3』を背負った彼の後ろ姿が、なんとも大きく見える。
札幌の赤黒のゲームシャツは選手を引き締めてしまうからかなのか、青白のストライプが膨張色だからなのか…。
なにはともあれ、札幌にとってはとにかく厄介な存在だった。
最高の形で決まりかけたカウンターも、どこからともなく現れた背番号『3』に弾き返された。
『試合前の古川コールのおかげか?』
もう、苦笑いを浮かべるしかない…。
90分のフルタイムを凌ぎ切り、ロスタイムが『3分』と表示される。
この時間帯での厚別のアウェイ側ゴールには何度も辛酸を舐めさせられているだけに、嫌な予感が脳裏をよぎるが、
そんな思いを吹き飛ばす為にも、最期の一瞬までサポートに没頭する。
『10分』にさえ感じるロスタイムの『3分』は至極ゆっくりと、だが着実に流れていく。
前半からあれだけ飛ばせば、後半には必ずガス欠を起こすだろうと高をくくっていたが、山形は最期の最期まで良く動いていた。
その事実は賞賛に値するが、勝ち点を譲る気はさらさらない。
『早く終われ!』
既定のロスタイムを消化した時、山形のシュートが大きく枠を外してボールが転々としていった。
勝利を確信して拳を突き上げる。
同時に主審の笛が、札幌の勝利を告げた。
耳を劈く歓喜の中で繰り返されるハイタッチが勝利を実感させてくれる。
『1−0』 という、いかにも札幌らしい勝ち方だった。
心臓には悪いが、これが札幌のサッカーである。
『5−0』なんかで勝っちゃう事もたまにはあるが、この方がやはり札幌らしい…。
得意げにというより、安堵の表情を浮かべながら選手たちがバックスタンドへと歩いていく。
大歓声と拍手に迎えられる選手たちだが、ふとその先に視線を移すと、
センターサークル付近で、古川先生がいつものように頭上でパチパチと拍手をしながらアウェイ側に引き揚げていった。
負けて悔しいはずなのに、古川先生は札幌サポに感謝の気持ちと優しさを残していった…。
CURVAに勝利の挨拶に訪れた選手たちを悲鳴のような歓声と拍手が出迎え、
続いてヒーローインタビューを終えた新居もCURVAに駆けつけた。
大歓声の中、今季のUS・Tシャツを貰ってゲームシャツの上に着るのかと思いきや、中途半端に着込んだ挙句、
それも数歩で脱いでしまうあたり『俺様ぶり』を遺憾なく発揮していたように思う。
苦しみ抜いた末のゴールだっただけに、これでなにか吹っ切れただろう。
相川にも、この日の新居のゴールは刺激になるに違いない。
AAコンビと岳也とWILL。札幌浮沈の鍵は、やはりFW陣にかかっている。
内容がどうのこうのより、勝つ事が大事。
勝ち点『3』を積み上げたんだから、細かい事は置いといて、勝った事を素直に喜びたい。
それじゃなきゃ、なんか損だと思う。
THE DRAGON STRIKES BACK.
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